「言い換えれば、将棋とは81マスに繰り広げられるフィロソフィーである。そして力強い中段玉なのである」
~つわぶき名言集より引用~
茶番はさておき、羽生ー糸谷戦(順位戦)の考察・解説・感想です。(棋譜はこちら)
僕は日頃から「将棋は国語力」と提唱しています。
筆者(対局相手)の気持ちを汲み取って、次の1手に回答をまとめることに努めています。
しかしながら、本局は角換わりから哲学模様の将棋となりました。
2~3時間ほど眺めて、ようやく雀の涙ほど理解できたので、ポイントをピックアップしていきます!
羽生ー糸谷戦が深すぎる。
生ける伝説である羽生先生と哲学科卒である糸谷先生の対局が、常人にわかることがあるであろうか。(反語)— つわぶき@全国優勝将棋ブロガー (@tsuwa_chesshogi) 2018年7月26日
目次
手渡し合戦(42手目:42銀)
ご存じの方も多いと思うのですが、まずは初歩的な解説から。
昨今の角換わりは角交換のあとに駒がぶつからずに硬直状態になることが多く、相手に手渡ししてそれを咎めにいく発想が流行しています。
例えば先手なら68の金は69→58→68と動いていますし、後手なら玉が42経由で52に。63の銀に至っては54を偵察して帰ってきています。
局面図では45歩の突き越しと88玉の入城の長短がキーになりそうです。
局面図は42手目に42銀と引いたところ。
桂が跳ねるとしたら25しかないのですが、その際の銀の当たりを予め避けているという含みもあります。
また、仮に先手が25歩と指せば、33銀と戻して後手満足。
そこから先手が攻めるには、47銀~46銀~26飛~35歩という手が必要です。
後手はその間に65歩から先攻してしまうでしょう。
2筋と4筋の歩の突き越しは、むしろ身動きが取れないためマイナスになっているのですね。
本譜は29飛54歩69飛から難解な手待ち合戦が続きます。
糸谷流の力戦へ(55手目:55同銀への応手)
先手が56の銀を67~66~55に使ったところです。
ここで糸谷8段の指し手は51飛。強く力戦に持ち込みますが、この手が指せるのは糸谷8段だけかもしれません。
振り飛車では戦いが起こった筋に転戦するのはよくある筋ですね。
ただ、飛車が相手の玉頭から離れますし、46角の筋が見えている分、指しにくいかなと思っていました。
僕なら守っては穏やかに54歩や53銀、攻めては35歩といった3択から選ぶと思います。
予想なのですが、糸谷8段は47角のような角のラインで攻める筋を気にされたのかもしれませんね。
桂頭の74のマスや、遠く92のマスを睨んでいます。
右玉ではないのですが、先日の棋聖戦第5局でも47角が実際に指されましたので、記事に記載しています。
不発に終わったのですが、面白い筋でしたので併せて確認してみてください。
本譜は51飛に54歩53歩46角と進み、先手が少し主導権を握ります。
激しい駒のぶつかり合い(62手目:36角成への応手)
先手が5・6筋を攻める中、後手は27角から36角成と馬作りに期待します。
ここで羽生先生は53歩成!と踏み込みました。
飛車を取れば62と~73銀成がありますし、角を取れば63で清算して65歩で攻めが繋がるということだと思います。
「両取り逃げるべからず」とは言いますが、飛車・角の両取りを放置するのはなかなか見ないので、とても印象に残りました。
中段玉の追い詰め方(72手目:54歩への応手)
73の地点で駒の交換が行われ、59飛に54歩と受けたところ。
本譜は自然調の53桂成に同玉、55歩となりましたが、後手玉が何とか踏ん張った格好になった気がします。
そこで僕はこの局面でウンウンうなることにしました。
「桂頭の玉寄せにくし」とは言いますが、先手としては角か桂が欲しいところですね。
例えばここで56飛とかどうでしょうか。
以下35馬57金となれば、次の46金がうるさいと思います。
また、57金に55銀は同飛!同歩(同玉は56金打64玉73銀で詰み)73銀54玉53桂成となり、飛車が手に入れば寄せも見えてきそう。
本譜の53桂成で、いつの間にか先手十分~有利の間に収まった気がします。
攻めの要を捕獲する(99手目:62金への応手)
62金と打ち込みましたが、これでは先手攻めあぐねてしまったと言えそうです。
飛車を逃げずに73桂!から竜を捕獲しにいくのが好手。
以下82龍81香(91龍には87香成)と進み、これではっきり後手優勢になりました。
これがあるのであれば、62金に替えて45金~31銀不成としておいた方が、拠点が残るので難しかったと思います。
玉の守りは角・歩三枚(106手目:45角)
正直、この手を見るまでは糸谷8段やばいんじゃないかとも思っていました。
しかしながら、この45角が攻守に利く名角でした。
守っては玉頭からの攻めをシャットアウト。攻めては86歩~87歩を見せ、先手玉が一気に危なくなった格好です。
本譜は56歩と中合いしましたが、手番を得たため86歩同歩87歩98玉95歩と進みます。
後手の2枚の香車が急に下段で光り始めました。
これには羽生竜王といえども防ぎきれず。
最後は後手が大駒を全て奪い、名将を投了に追い込みました。
79飛の打ち込みに対し、(1)同金は同馬、(2)87金は56角で寄っています。
後手陣に迫る手はありません。
それにしても、糸谷8段の玉捌きと大局観はいつ見ても圧巻の一言。
A級初参加で偉大な棋士から1勝目を挙げました。
好調の現在、台風の目となることは間違いないでしょうし、個人的にもこのまま活躍を祈念したいと思います!
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[関連棋書の紹介]
糸谷8段の一手損角換わりの本。
中身を読みましたが、学術論文を読んでいる気しかしませんでした。
ちなみに棋士の方々からは「文章が固すぎて将棋本っぽくない」という声が上がっているようです。笑
しかし、当然ながら、一手損角換わりのエッセンスが確実に詰まった一冊であることも間違いありません。
知る人ぞ知る、西遊棋監修のライトノベルです。確か、アニメ化もされましたね。
糸谷8段が実際にやった奇想天外なポカなども盛り込まれており、実はコアなファンも楽しめる内容になっています。
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